失われた夜の歴史

晩御飯はさっき食べたとこ。あと何分かで九時になる。

そしたらクラスのみんなも観てるドラマが始まる。

おじさん達がうちに来ているから、もしかしたら今日は見れるかも。

酒飲んで大人の話で盛り上がってるし。

しかし野望は打ち砕かれる。九時だからもう寝なさい、と言われ、

『九時だから』ってなに、と思いながら寝室に送られる。

あとちょっとだったのに。タオルケットが煩わしい。

電気は消されて、部屋は真っ暗。

ドアの底から、リビングの光が廊下づたいに漏れている。

向こう側の影が揺れてる。時々笑っているのが聞こえる。ところどころ、方言も混じっているせいで何を言ってるかは解らない。

…あのドラマ見たいって話、前したのに。はぁー。いいなあ大人は…遅くまで起きれて。好きなテレビ観れるし。大人にも子供の頃はあったのに、なんでこんな時くらい優しくないかねえ。

でもお父さんのちっさい頃はお金持ちのおうちだったから、集落でも一つか二つしかないテレビがあって、同級生が家に集まってみんな見に来てたって言ってたな。

じーの子供の頃は…テレビは絶対ないな。ていうかラジオもないかも?電気もあったか怪しいな?そしたら夜何してたんかな??電気無かったら本も読めないじゃん!暗くなったらすぐ寝たんかなー。電気ないから星いっぱい見えたはずなー。でも毎日ずっと星だけ見てて飽きなかったのかな?昔の人超ヒマじゃん。俺には無理だなー。……。

 

やっぱり寝れない。灯り無いとすること無さすぎでしょ。ていうかおじさんたち来てるし、今日はお母さんちょっと甘いかもしれない。いい顔したいはず。「お母さーん、やっぱり寝れんから眠くなるまでちょっとだけテレv…」

「ダメ!!寝れ!!目つぶったら寝れるよ!!」

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星を知らない遠い昔は、夜空は天上の世界を覆うベールであり、

星々の輝きはその異世界から漏れている光だと信じられていた。

光の向こう側には神々が待つ。

信心深いもののうち、星から声を聞いたものもいるだろう。

星に語り掛けていたんだろう。明日の暮らしを願っていたのか。

暮らしで起こる理不尽なことに、神へ怒りをぶつけていたか。嘆いていたか。

 

幼い頃、星は月のお友達、と教わった。

走ってもずっとついてくるやつ、よく見ると思ってたより明るいやつ。大きい時もかっこいい形になるときもあるやつ。あのあれ。あれがお月様。星はあのお月様の遠いバージョン。それか近いやつ。

星座も教わった。あそこをつなぐとカシオペア。あれが北極星。空のてっぺんの目印だよ。絶対北にあるからよ、夜迷子になったらあれをみなさいね。

 

教わった時点で、星座は星と星を結んだ線で描くもので、星は物体としてインプットされる。「線や点でむすぶもの」、「物体」という知識からは逃れられず、星のことを「夜のベールにあいた穴」とは想像しない。

腑に落ちた説明を、ふたたび疑うことはむずかしい。

知識は空想の余地を殺してしまうことがある。

いまの世で、誰か想い人を投影しない限り、星に話しかける人はいない。

 

逆にその知識が正しくない場合。

 もっともらしくて、疑われることのなかった(検証の余地がなかった)誤った理論。

そこに繰り返す日常で気づいた法則と、自然現象の一部が当てはまる時に、迷信は生まれる。迷信は行動を縛り付ける。

泣けば山から猛虎来る。夜口笛吹くとお化け来る。コーラで洗えばなんくるない

 

世俗のなかで迷信は、何度も形を変えたりしつつ立ち昇り、時代の進歩とともにいつしか忘れ去られる。

その当時の人々が信じていた精神世界の記録が残されず、忘れられたまま永い時間を経てしまうと、「昔の常識」を再び目の当たりにする頃には、もはやそれはファンタジーとしての要素を帯びている。

 

10年前の常識はダサいし(「iphone?携帯オタクっぽくてキモっ」って扱いだったねえ)、50年前の常識は笑える。200年前の常識は不思議に感じて、さらに過去はファンタジー

 

失われた夜の歴史

失われた夜の歴史

 

過去の「夜」は現代人の知らない「夜」だった。

夜に対するエピソードが大量に紹介されており、読み進めるうちに、闇夜はプライベートをもたらすが、災いの成分も多く含んでいるので、日が暮れただけで生きるや死ぬやの時間になる。でも人間にとっての夜の最大の脅威もまた人間であることがわかる。

 

 

誰かが夜に家の戸を叩いても、悪霊かもしれないし、夜道ですれ違う顔の見えない相手は悪魔や強盗かもしれない。

 

・夜の居酒屋では、アルコールと男性の暴力的な雰囲気が高純度で満たされており、ちょっとしたことで殺したり殺されたりが日常茶飯事だし、

 

・夜中に井戸水を汲みに行くと、よく落ちて死ぬ、川に落ちて死ぬ、崖に落ちて死ぬ、とにかく夜道は死が近づく

 

・法律は朝と夜とで異なっていた

 

・宿など、家から離れた場合、ベッドは共有するものだった。他人と同衾することも、さらに同衾者がいることは喜ばしい事だと考えられていた(!)ベッドの中では親密さが増すので、相手のことなど気をかけない主人と召使のような主従関係も、昼とは違い進んで破られる傾向があり、召使との私生児ができたり同性愛がはじまったり…

 

・睡眠時間は基本的に、どちらも同じくらいのまとまった時間の「第一の眠り」と「第二の眠り」の二度寝スタイル。大体真夜中を過ぎた頃に一度目覚める「睡眠のための中休み」があって、その時間はトイレに行ったり火の様子を見たり、内職をしたり外に盗みに走ったり。

 

 

当時の人々にとって、幼い自分が感じた退屈な夜こそ、ファンタジーだったのかも。

語り継がれなかった夜への誘惑に富んだ、眠れない夜におすすめしたい一冊。一言文句をつけるなら、各エピソードの時間軸がバラバラなので、風習の変遷がつかみにくかったかな。

ところで異世界転生もののライトノベルなんかはこういった認識の異なりも描いているんだろうか。だったら読んでみたいけど…強くてニューゲームものが嫌いなので(偏見)。 

パリのすてきなおじさん

就業時間が終わると家に帰りたい以外の気持ちがない。おっしゃ飲みに行くぞ!という気分になることはほとんどなく、出てもあの店のカレーが食べたいとか、コーヒーが飲みたいとかない限り、チャリンコは全力で家を指す。

飲み屋で知り合ったり、友達ができたりと、楽しい話も聞こえてくるが、それはたまたまそうなったケースだけを取り上げてる場合がほとんどで、大抵は何もなく、ちょっといい気分になるだけだろう。別段店員や客とコミュニケーションを取ろうなんて思わないし、聞こえてくる会話も苦手な内容(ねずみ講の勧誘や愚痴)だと、あまりメシも酒も旨く感じないので、それらに高い確率で遭遇するファミレスも苦手。頑張って立ち飲み屋でおしゃべりを楽しもうと試みたことも数回あるが、表面上の探り合いか、相手が年上なら役職マウンティングか世代マウンティングに終わる。巡り合わせの悪さもあるだろうけど。

天気の話もうまくできないような、世間話苦手マンには世間の声が聞きようがない。もちろん傾聴に徹しすぎてインタビューがどヘタなのもある。けど本当は知りたい。自分の知らない仕事をしていたり、世界を見ている人の生の声が聴きたい。おじさんなら誰だって何かのプロフェッショナルのはずさ。

 

そんなおじさんlessのおじさんであるワタクシは、ちょうどいい本に出会えました。

パリのすてきなおじさん

パリのすてきなおじさん

 

 

おじさんコレクターの筆者と、パリ在住ウン十年のジャーナリストがタッグを組んで出来上がったおじさんインタビュー集。いや絵日記か。

 

フランスには出自や国籍、宗教様々な人がひしめいているが、おじさんには更に人生の積み重ねがあり、人として魅力を増している。

登場する全てのおじさんの立ち位置や収入、生き様は様々。画家のおじさん、フリーメイソンのおじさん、彫金師のおじさん、LGBTセンターのおじさん…

おじさんは、都合のいい解釈を必ず一つは持っている。それが、家と職場往復マンの価値観を少し広げた…ように感じる。 

 

 

もし日本でおじさん探しをするなら、どこが幅広いおじさんを得られるだろうか。東京か、大阪か。東京の方が出自様々なおじさんがいるだろうけど、区によってレイヤーが分断されてるイメージがあるからどうだろうなあ。「月曜から夜更かし」が思いつく。でもあの番組強引にオチ付けるからなあ。

 

パリには行ったことがない。この本を読む前に行くのと、読んでから行くのでは、また違った景色が見えそう。人の過去から歴史が見えて、時の流れがロマンを感じさせたり…。

イラスト、フォントや本の大きさも手に取りやすく、気を抜きたい時にちょうどいい一冊だと思う。喫茶店なんかに置いてあるといい雰囲気でそう。kindleは無し。これは本で持っておいた方がよいと思った。


「人生を学んでいるあいだに手遅れになる。大事なことを後回しにするな。」

2016年読んだ本

昨年の振り返りではなく2016年のやつ。読んだのは138冊。ちょっと引いた。学生時代に読むべき量であって30代男性が読む量じゃねえ。とにかく仕事がヒマだったのもあるけど、全然外出も夜遊びもしてないのが一発でわかるね!
マーカー引いてあるのは当時特にグッと来たもの。今見ても、読書という体験に新しい視点を持たせてくれたものがほとんど。中には絵本が入ってたりして、あんとき弱ってたなあと思い返したり。
 
  1. 1/2火星の人
  2. 1/16人間にとって成熟とは何か
  3. 1/17悲しみのイレーヌ 
  4. 1/18部屋 
  5. 1/18痕跡本のすすめ
  6. 1/19何者 
  7. 1/20狭小邸宅
  8. 1/22圏外編集者 
  9. 1/23独居老人スタイル
  10. 1/23自分を生きられないという病
  11. 1/26ルポ 消えた子どもたち
  12. 1/26御不浄バトル
  13. 1/27永い言い訳
  14. 1/29漢方小説
  15. 2/4池澤夏樹=日本文学全集08 日本霊異記録/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集
  16. 2/5あさになったのでまどをあけますよ
  17. 2/11エンジェルメイカー
  18. 2/12池澤夏樹=日本文学全集03 竹取物語/伊勢物語/堤中納言物語/土左日記/更級日記
  19. 2/14夕暮の緑の光
  20. 2/16ニューカルマ
  21. 2/17マーチ博士の四人の息子
  22. 2/18幕末単身赴任 下級武士の食日記
  23. 2/19老後破産 長寿という悪夢
  24. 2/19アメリカ最後の実験
  25. 2/19パンク侍、斬られて候
  26. 2/20無国籍の日本人
  27. 2/21破滅の石だたみ
  28. 2/22ザ・ロード 
  29. 2/24告白 町田康
  30. 2/28マルドゥック・スクランブル
  31. 2/28解錠師
  32. 2/29社会人大学人見知り学部卒業見込
  33. 2/29島田清次郎 誰にも愛されなかった男
  34. 3/4想像ラジオ
  35. 3/6ハミザベス
  36. 3/6ドキュメント 死刑に直面する人たち
  37. 3/9本日はお日柄も良く
  38. 3/12虐殺器官
  39. 3/24それからはスープのことばかり考えて暮らした
  40. 3/30うそつき、うそつき
  41. 3/30秘島図鑑
  42. 4/3レヴェナント 蘇りし者
  43. 4/6絶叫委員会
  44. 4/10素晴らしきソリボ
  45. 4/16わたしは英国王に給仕した
  46. 4/21ムーンパレス
  47. 5/16最貧困女子
  48. 5/31ヘンな論文
  49. 6/1紋切型社会
  50. 6/8くう、ねる、のぐそ
  51. 6/9昔は良かったと言うけれどー戦前のマナー・モラルから考える
  52. 6/9スクリプトドクターの脚本教室初級編
  53. 6/11さよなら、シリアルキラー
  54. 6/11東京右半分
  55. 6/15仁義なきキリスト教史
  56. 6/16ニセ医学に騙されないために
  57. 6/17事件現場清掃人が行く
  58. 6/18ヤノマミ
  59. 6/20日本の風俗嬢
  60. 6/21セックスセンス
  61. 6/25内向型人間の時代
  62. 6/30へろへろ
  63. 6/30試練は女のダイヤモンド
  64. 7/1ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か
  65. 7/2おもかげ復元師
  66. 7/4すべてはモテるためである
  67. 7/5翻訳できない世界のことば
  68. 7/5危険動物との戦い方マニュアル
  69. 7/7性風俗のいびつな現場
  70. 7/10泡沫候補
  71. 7/11驚きの介護民俗学
  72. 7/14人生パンク道場
  73. 7/14ワイフプロジェクト
  74. 7/20私たちがプロポーズされないのには101の理由があってだな
  75. 7/21世界の辺境とハードボイルド室町時代
  76. 7/25サイキック・マフィア
  77. 7/26奴隷のしつけ方
  78. 7/27ギケイキ
  79. 7/28名前も呼べない
  80. 7/29見えない私の生活術
  81. 7/30もう年はとれない
  82. 7/31陽だまりの彼女
  83. 8/2顔ハメ看板ハマリ道
  84. 8/6意識と無意識のあいだ 「ぼんやり」したとき脳で起きていること
  85. 8/7トラウマの国
  86. 8/8
  87. 8/10ロマンティックあげない
  88. 8/21バーのマスターはなぜネクタイをしているのか
  89. 8/27「病は気から」を科学する
  90. 8/28けむたい後輩
  91. 8/31さよならクリームソーダ
  92. 8/31本を読むときに何が起きているのか ことばとビジュアルの間、目と頭の間
  93. 9/1北朝鮮 14号管理所からの脱出
  94. 9/2男という病
  95. 9/3ミッキーは谷中で六時三十分
  96. 9/13隣の家の少女
  97. 9/16戦前の少年犯罪
  98. 9/19地上最後の刑事
  99. 9/21損したくないニッポン人
  100. 9/22脳が壊れた
  101. 9/24情け深くあれ 戦国医生物語
  102. 9/26英国人記者が見た連合国戦勝史観の虚妄
  103. 9/29しんがり 山一証券最後の12人
  104. 9/29いのちの初夜
  105. 9/29作家と一日
  106. 10/3ルポ 中年童貞
  107. 10/11予想どおりに不合理
  108. 10/12あまりにも騒がしい孤独
  109. 10/14憧れの女の子
  110. 10/20その後の不自由「嵐」のあとを生きる人たち
  111. 10/21センス入門
  112. 10/25その日暮らしの人類学
  113. 10/26蘇生科学があなたの死に方を変える
  114. 10/27りこんのこども
  115. 10/27傷だらけの店長
  116. 11/1夜空はいつでも最高密度の青色だ
  117. 11/3古代ローマ人の24時間
  118. 11/4家族無計画
  119. 11/6はじめての不倫学
  120. 11/10貴様いつまで女子でいるつもりだ問題
  121. 11/11TED TALKS スーパープレゼンを学ぶTED公式ガイド
  122. 11/15ツリーハウス
  123. 11/16臆病者のための株入門
  124. 11/17のんのんばあとオレ
  125. 11/18謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア
  126. 11/19ストーカー加害者:私から、逃げてください
  127. 11/23不愉快な事には理由がある
  128. 11/25ぼくは悪党になりたい
  129. 11/27これでよろしくて?
  130. 11/28読めよ、さらば憂いなし
  131. 11/29分子レベルで見た触媒の働き
  132. 11/30少年の名はジルベール
  133. 12/4ミスター・メルセデス
  134. 12/9プリズン・ブック・クラブ
  135. 12/16世にも奇妙な人体実験の歴史
  136. 12/22不潔都市ロンドン
  137. 12/23女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり
  138. 12/24経理部は見ている

 

 

 

今でも内容が心に残ってて、説明しやすいものを。

 

  • わたしは英国王に給仕した
わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

 

ボーイからホテルの給仕まで出世していく様を、トルコ史を知っていればより深く楽しめるだろうなあ。

読んでいてずっと映像が浮かぶという体験をしました。上物ネクタイひとつで、人は見る目を変えるのね。

「お前は何にも見てはないし、聞いてもいない。けど、お前は何でも見て、何でも聞いていないといけないぞ」という接客の基本が教えとして一貫してストーリーの根底にあり続ける。栄光と転落。

読み進めていくうちにグランド・ブタペスト・ホテルの原作かと思ったけど、違うみたい。

 

 

  •  サイキック・マフィア

エセ宗教とか、健康食品とかね、いかにそれがインチキなのか、あなた騙されてるよ、搾取されてるよ、と客観性ある化学的・物理的根拠を持って説明しても全然受け入れてくれないこと、多々あるじゃないですか。なぜそうなるかの心理をだましてた側が回顧しながら説明していく構成。わかってるけど、でもお金結構つっこんじゃったから、今更うけいれられません!という心理は、ギャンブルに似てるね。

 

 

  •  脳が壊れた
脳が壊れた (新潮新書)

脳が壊れた (新潮新書)

 

脳梗塞やっちゃったライターの渾身(ホントに渾身)のルポ。脳梗塞を経てどんな兆候、症状、感情発露や手先が自由に使えないことによる不便さがどのように表れていくか、どんな戸惑いがあるのかなど、非常に自分をつぶさに観察して書かれているので、身内が脳梗塞やりましたーという方には内面理解の手助けになるだろう。脳梗塞起きてなくても兆候を知るためにもぜひ。とても読みやすいです。

 

 

  • 北朝鮮 14号管理所からの脱出
北朝鮮 14号管理所からの脱出

北朝鮮 14号管理所からの脱出

 

ミサイル飛んできたり長男暗殺されたりとタイムリーですが、全然見えてこない北朝鮮人民はどんな暮らししとんの?この本に書いてあることが真実とするなら、国を名乗るのもおこがましいなとも思える。想像を超えて地獄。搾取、相互監視…。ディストピアがお好きならぜひ。もっともこれは、現実のようですが…。

 

 

 

  •  夜空はいつでも最高密度の青色だ
夜空はいつでも最高密度の青色だ

夜空はいつでも最高密度の青色だ

 

10~20代の若手メンヘラ女子のみなさまは、最果タヒを読めばTwitterでポエム書くこともなくなるんじゃないだろうか。

あなたが一人で抱えている(と思っている)さみしさは、全部ここにあるよ。最近映画にもなってましたね。

俺は本をおすすめするよ。

 

 

 

現代ソマリランド室町時代、時代も国も違うのに文化が似てない?専門家同士ちょっと話してみようや→おんなじやん!という対談集。ここから読んでも充分過ぎるほど面白いが、謎の独立国家~を先に読んでいるとより室町時代についても知りたくなるでしょう。文化が違いすぎるとその地の暮らしはファンタジー。

カート(麻薬)を噛み噛みしながら会議するて。ソマリランドは現金よりSMS送金決済が本流。エムペサの現地での幅を利かせ具合もしっかり描かれているので、仮想通貨追っかけてる人は実際SMS送金がどんなものか、どのように浸透しているかの理解にもなると思います。逆に俺はここでエムペサを知ってから仮想通貨にハマったクチです。

 

ジャンルに偏りを感じるな~。

 

 

 

 

 

 

世界をまどわせた地図

アトランティスムー大陸。エルドラド、ウルティマ・トゥーレ...。

観測・測量技術の限界、蜃気楼が見せた幻、海図の写し間違い、名誉欲がついた嘘、金銭のためのでっちあげ…。その存在を証明するために、多くの資産と命が消費され、誤りは時代と共に訂正されていったが、それでも何百年にも渡って信じられて、地図に描かれ続けたものが存在する。 

世界をまどわせた地図 伝説と誤解が生んだ冒険の物語

世界をまどわせた地図 伝説と誤解が生んだ冒険の物語

 
掲載されている地図は大きく、見易く鮮明で、フルカラーで充実していて、どういった経緯で記載され、転載・訂正されていったか、解説もわかりやすく、知識が全くなくても楽しんで読める文章。
 
欧州中心の地図がほとんどなため、馴染みのない俺はGoogleマップを片手に参照しながら、日本から見たらどのへん?カリフォルニア島には女しか住んでない!?島じゃねーし!とツッコミを入れながら楽しんだ。
 
当時はニセの航路だが、今ではアメリカとカナダの国境線になっている海路もあるし、なんと、航空写真や人工衛星からの撮影さえ可能な現代で!つい最近までGoogleマップに丸7年も存在した幻の島さえある。何にも信じらんねえな~。逆に言えばまだ載ってない島や宝がある? 仲間が揃うかはともかく、ワンピースを探すために今出航したって遅くない。あの世界にはエロい体の女しかいない。
 
時代が進むと日本も描かれるようになり、不思議な形の日本を楽しめる。北海道そのものが存在しないのは、間宮林蔵以前で、日本の形とかは当時の日本人から確認してたりしたんだろうなあ。まみりん18世紀の人間だもんな。
 
脱線になるが、外国人のファーストコンタクト日本人像は、『逝きし世の面影』に詳しい。
文章が非常に美しく、在りし日がありありと目に浮かぶよう。こちらもお勧め。 
逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)

逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)

 
外国人からすると当時の日本の村や田畑、営みは美しく、理想郷であり、日本人は外国人に対し鬼じゃ、バケモンじゃという反応ではなく、シャイだが袖引っ張ったり顔触りに来たり、人懐こかったらしい。
ペリーが浦賀に現れた時、船に春画が投げ込まれてニタニタ反応を見られたなんてエピソードも。
乗組員がペリーに、キャプテン!あいつらエロ本投げてきます!HIWAI!やめさせてーや!と報告したらしい。
俺も宇宙人に会ったらまずエロ動画見せて交友を図りたい。オレ、上原亜衣、スキ。ユートゥー?
 
 

話を戻して。

15世紀頃までの地図には魚の尾を持つ一角獣、島のふりをするほど巨大な怪物が描かれている。今でこそ笑えるが、当時は信じられており、怪物ごとの対策があったり(ラッパの音に弱いとか)。地図の制作側からすると、実際にはまだ知らない部分の空白を埋めるためという側面もあったらしい。
けっこうショックしちゃうねその事実。
また当時は、怪物だけじゃなく人間も様々な種族が信じられており、そちらもネットに転がってる画像より資料・解説は充実している。

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オイラだよフォックス~
航海への不安と、新天地への期待をないまぜにして、どんな面持ちで当時の海の男たちは旅立って行ったんだろう。
抗生物質もない。ビタミンの存在も知らない。実際は薬効なんてない、まじないでしかない薬。風呂に入る習慣もないから不衛生。
陸にも海にもバケモンそこかしこ、未知の病、たどり着いても原住民に殺される…。
地図に記されたのはありもしない桃源郷。それを信じ、夢を膨らませる。
もしも見つけたらよ、俺が世界を拡げたんだぜ!名誉に勝る勲章なし。
ビーアンビシャス!かくして、びにたき探検隊株式会社は、資産家を説得し出資を受け、航海に出るが…俺は虚弱だから仲間に掘られた挙句栄養失調で死んじゃうだろうな!
 
 
 『世界を惑わせた地図』は幻の島を扱ったものだが、実際にある島、それも無人島に想いを馳せるなら、『秘島図鑑』を勧めたい。
秘島図鑑

秘島図鑑

 

日本の無人島・岩の写真とエピソードが満載で、行けない島ガイドとして、ロマンをもたらす。日本の広さを知らされる。アホウドリ乱獲と開拓者の悲しい歴史は、開拓の負の側面を教えてくれる。

 
今思いついたけど、VRがある環境を活かして、Google earthVRで尋ねてみようかな。
Google earthVRは上空から、宇宙から、シームレスにその地に降り立てる。建物などは立体的な3DCGによる表示だが、最近は道なども360画像で表示されるようになった(VRと360画像は相性がいい)。
航空写真のままじゃないといいけどな~。
 

ブラッド・メリディアン

「めっちゃ人死ぬで」くらいの前情報しか知らず読み始めた。2年前の記憶なのでややおぼろげ。

ブラッド・メリディアン

ブラッド・メリディアン

 

1845~50年?くらいのアメリカでのおはなし。

西部開拓時代ッ!!!

フロンティア・ラインは俺たち白人にはあってはならないッ!!俺達に拓かれるためにこの大地はあるッ!その価値もわからぬ野蛮な先住民はブチ殺す義務があるッ!マニフェスト・ディスティニー! 

ゴロツキども!インディアンをブチ殺すたびに金をやる…頭の皮を剥いでこい!

 

この時代のアメリカにはドナー隊(グロ注意)やゴールドラッシュ、カリフォルニアが今アツい!!金が出たぜヤッホイみんな集まれ~☆くらいのイメージ映像しかなかったし、インディアンは軍と戦ってたとばかり思っていたので、ならず者どもが跋扈してカネで殺人をやってたことに想像が行き足りず興奮してノンストップで読み進めたのを覚えている。

ページをめくる度に人死んどる。殺され方も野蛮。さっきまで一緒に遊んでいた子供でも、叫び声さえ上げさせず、ただ、人が、人が。。。

いやーめちゃ人死ぬいうてバトル・ロワイヤルくらいっしょ?と思ってたけど、400ページくらいある本の最初から最後までずっと人、死ぬ。敵も味方も皮を剥ぐ。生きたまま焼く。なんか欠損しよる。過去の小説の中でも一番死んでるんじゃないの?

 

『判事』という、デカブツながら知性が高く、演説と踊りが上手で殺しも慣れてる、カリスマに溢れた人物が主人公をインディアン討伐隊に誘い、旅をリードしていく。

隊は想像しうるこの世の地獄を具現していくが、その残酷さと対比するように、自然の描写が圧倒的なのも印象的。人の営みに無関心で、美しい。

お、朝日きれいやん。昇るの見てから先いこーっと(そのあとすぐ殺しが始まる)。

その中で『判事』は段々と敵か味方かわからない挙動を示し始め…

 

うーんあの判事は何なんだろう。国そのものかなと思う。

 

 

映像化不可能(グロすぎるから)だなんて言われてるけど、ウォーキングデッドのシーズン7があんだけ表現規制を飛び越えてやりたい放題やってるんだから、もう出来るのでは?でもアメリカに都合悪すぎる歴史表現は映画になんないかなあ。

 

この本を読んでから、俺の想像力なんてのは、テレビやマンガで見聞きしたのをいつのまにか忘れ、空想するころになって、自分で世界観を拓いたかのように思い込んでいるだけなのだなと思った。本当は借り物の世界を思い出してるだけなのに。

こんなにひどい世界があったんだ。それも現実に。

 

もっと本を読もう。原作を。映像化されたものでないものを。イメージの幅を広げたい。フィクションに。歴史に残されていない人の暮らしに。現代にない常識や考え方に。

…と感じさせてくれ、読書の習慣をつけてくれた一冊でした。

 

 

 

 

2015年読んだ本リスト

2015年に読んだ本は46冊。ライン引きは当時、面白い!手元に置きたい!と思ったもの。
今振り返ると、そんなに面白いわけではなく、感動の瞬間最高風速が読後すぐだっただけだぞってタイトルにもラインを引いている。
 
  1. 1/23 私の夫はマサイ戦士
  2. 1/25炭素文明論
  3. 1/29ブラッド・メリディアン
  4. 2/11ゴーストマン 時限紙幣
  5. 2/15 邂逅の森
  6. 6/? その女アレックス 
  7. 7/23横道世之介
  8. 7/23火花 
  9. 7/24円卓 
  10. 7/25きりこについて 
  11. 7/29四畳半神話体系
  12. 8/2悪人  
  13. 8/2  
  14. 8/14ポリティコン 
  15. 8/16世界の奇妙な博物館
  16. 8/21孤独死のリアル
  17. 8/23あるキング 
  18. 9/6モンスター 
  19. 9/18読書の腕前
  20. 9/27死のドレスを花婿に 
  21. 10/1愛を返品した男
  22. 10/11女友達の賞味期限
  23. 10/15 トーマの心臓
  24. 10/16気になる部分 
  25. 10/17 拳闘士の休息
  26. 10/20失われた夜の歴史
  27. 10/30勝手に生きろ 
  28. 11/16ぼくのメジャースプーン
  29. 11/20町でいちばんの美女  C.ブコウスキー
  30. 11/21あなたを選んでくれるもの ミランダジュライ
  31. 11/21弟の家には本棚がない 吉野朔美
  32. 11/22非現実の世界で ヘンリーダーガー
  33. 11/23妻を帽子と間違えた男
  34. 11/25天国でまた会おう
  35. 11/26悪党
  36. 11/27握る男
  37. 11/30オスカー・ワオの短く凄まじい人生
  38. 12/7南島小説二題
  39. 12/11漁港の肉子ちゃん
  40. 12/13日本を捨てた男たち フィリピンに生きる困窮邦人
  41. 12/13東京を生きる 雨宮まみ
  42. 12/16フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠
  43. 12/18不潔の歴史
  44. 12/16人間の分際
  45. 12/25古事記(池澤夏樹=個人編集 日本文学全集01)
  46. 12/30ナイルパーチの女子会

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本なんて、これまでシリーズを通して読んだものといえば、京極夏彦江戸川乱歩ぐらいしかなく、ジャンルもミステリのみ、小説=ミステリとさえ思っていた節さえある。何を読めば、自分が興味が沸く世界に触れられるかまったくわからなかった。

 

とりあえず、読みたい本と思える本を探すところからなので、読書家のブログをいくつか覗いたり、書店員が個人的に勧める本のリストや、図書館のサイトの新着資料から目を引くタイトルのものから、

  • 見聞きしたことがないタイトルであること
  • ストーリーが面白そうであること
  • 難解でなさそうなもの

この3つの目線でチョイスし、傾向が偏って飽きないよう、情報源を分散させたことを記憶している。本屋に平積みされているものはタイトルや話題性だけで、読んでもぴんと来ないことが多かった。ベストセラーが面白いとは限らない。そんなんゆうて『その女アレックス』めっちゃ面白かったけども。

 

 

海外作家ものは、これまで日本以外の文化を下地に書かれた小説なんか、どーせ感情移入できまい!理解もできまい!と食わず嫌いをしてたけど、コーマックマッカーシーとロジャーホッブスが誤りを打ち砕いてくれたおかげで、バンバン興味を持って他のタイトルにも手を伸ばせるようになった。

チャールズブコウスキーに出会えたのも嬉しかったな!孤独に苛まれていないタイプの、アウトロースレスレでくすぶってるアル中ダメ人間は、主役ではなく、これまでは主人公や周囲を苦しめる配役としてしか認識してなかったからな。同じような周囲のクズを温かい目線で見るようなところがある。

 

年末には新訳の古事記に出会えた。本を手に取った時、帯のイラストの力強さに目を奪われ、読み進めるたびに帯を見返して、はーすごいな、一枚で全部表現しとる、うわあ、はあ、と声に出したのを覚えている。

 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集は全30巻だが、そのうちに全部揃え、自分の子供の手に届く場所に置きたいと思っている。全てが新訳ではないし、一部は新訳なのに読みにくくなっているものもあるが、これまでの訳との、古典への親しみやすさが圧倒的に異なる。小難しい日本語で書かれてなく、注釈も充実していて、古典本来が持つユーモアを鈍らせず、生き生きと光らせているように感じる。なんか書いてる日本語が聞きなれんし見たことないしで難しいわ、オチもよくわからんし、もう読むのやーめた。とならない。

 

つうてもどんな感じ?古典って言われてもそんなん知らんし、と思うなら、イントロダクションには町田康の瘤取り爺さんを読むとよいです。おほほ。

 

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それにしても、本に限らず、『意図を持って選ばれたもののリスト』というのは面白いな。なぜそれに目をつけたのか?どんな背景があるのか?余計な空想が紐づけされて広がっていく。そのベクトルが固定され、自分も調べてみようと選択と決定をする、スカラーを持つ時こそがワクワクしているかもしれない。買い物は選ぶときが一番楽しい。

 

次はブラッドメリディアンかゴーストマンについて書いてみようかな。

アウトプットをやめるとき

思い返せばピュアな中学1年生の頃、初めて2chを見て、世の人々の本音というか、腹黒さに触れて、3日くらいは具合悪かったのですが、それと同時に、

「有名でもないのに、こんな面白い事かけるやつ・考えるやつゴロゴロおんの!?俺もう見るだけにしとこ」と打ちのめされ、当時流行り始めていたテキストサイトもぱったりやめ、大学時代などはインターネットに触れることさえ己に禁じていたのですが、やっぱりしょーもない言い回しとか思いついたら言いたいよね(これは周りに話せる友達がいないことが絶対原因)と、Twitterを何年も続けていた次第です。

 

日常でも、単調な仕事が続いており、思考の整理をつける必要がない生活に甘んじているため、最近では、

「世界のなにがしかに触れて、己の精神世界に波紋を広げたとしても、それで十分ではないか?アウトプットは必ずしも必要ではないでしょ」

とまで考え出す始末、お前どんだけ内に内に篭りたいねん。

 

それが「他人から評価されるのが怖いだけ」であることにやっと思い至った次第であるため、半ば勢いでいまさらブログをはじめることにしました。

一大決心のアウトプットの表現方法がブログて!!!!ちっちゃ!!!ていうか2017年に!!ブログ始めるて!!!

 

こんなんセルフツッコミ入れるから何も始められんしすぐやめてしまうのです。

うるさい!!!!!消えろ!!!ボクの中の悪魔め!!!

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テレビで小藪がこんなことを言ってました。

「えらい小難しい本とか、映画、漫画、芸術、その辺ばっかり好きなやつおるけど、そいつらに話きいても全然おもろないねん。引き出せてへん。消費するだけや。そういうタイプの芸人に台本書かせても、人の漫才の評価ばっかりで、全然かかれへん。アウトプットが全くできてへん。ほんなら意味ないねん。アウトプットを繰り返さん限りいいものは絶対作れへん」

 

自分は漫才師のような表現者ではないにせよ、小藪の話には胸倉を掴まれたような気分になりました。2年ほど前から図書館に通うようになり、月に5~6冊程度読んでいますが、したことといえば読んだ本リストを作って、特に面白かった本にマーカー入れるだけ。俺、消費してるだけじゃん!!整理をせんかい!

 

とりあえずは読んだ本リストの中で、内容を伝えてみようと思います。

いつも初めに風呂敷広げて破綻するのが常なので、簡単なとこからね。

 

——気持ちの整理がつかなくて、泣きながら近所を歩き回ったこともありました。
そんなとき、会社のホームページに日記を書き始めました。花が咲いたとか、ひざが痛いといったほんの身辺雑記なのですが、たまに知り合いに「読んだよ」なんて声をかけられて、窓ができたような気持ちになった。死にたいと思っている時は、窓がない、出口がないと感じている。悩みについて考え始めると、人に言えなくなって、自分の中で堂々巡りが始まります。ひとりで悩んで、考えても問題は解決しない。

『自殺』/末井昭

 

「窓」をつくって、放り投げる。

 こんなに重たく暗い背景はありませんが、やりたいことはこんな感じ。